
カラーグレーディングがしっくり来ず、一つのクリップを延々といじくり倒した経験は無いでしょうか?
はたまた、前回はドンピシャでハマったお気に入りのLUTが、今回はどうも合わないという経験は無いでしょうか?
上記の場合、大抵は素材に「欲しい色が存在していない」ことが原因となります。
そもそも撮影データに含まれる色の情報が足りないのであれば、持ち上げようにありませんので、それを知らずに無理をすると階調に破綻が起き、違和感のある見た目になります。
例えば月を赤くしたいだけなのに、街明かりも釣られて赤くなってしまうというのは、元から月が赤くなかった事が原因となります。
撮影時の設定が問題だったのであれば、比較的改善の余地はありますが、そもそも撮影した画角の中に欲しい色が含まれておらず、それでもカラーグレーディングで何とかなるのでは?という思考で臨んでいるのであれば要注意です。
前述した通り、無いものは引き出せません。
という事で、理想のLookを作る為には「撮影対象に必要な色が存在している事が重要」という結論になります。
もし今まで色の有無を深く考えずに撮影していたのであれば、少し意識を向けるだけで作品が段違いに良くなります!
詳しくはこの後ご説明させて頂きます。
また、色のバランスに関する知識は当然必要になりますが、臆することはありません。
Adobeが無料で提供する「Adobe Color」という便利なツールを使えば、誰でも簡単に配色を学べて、撮影の企画に生かす事ができますので、具体的な機能についてもこの記事でご紹介したいと思います。
カラーグレーディングに依存しない色作り

街中で撮影する際によく思うのは「日本の街並みは色が少ない」という事です。
全体的にグレーなんですよね。
なので、そこに人を立たせたとしても服の色が地味だとすぐに埋もれてしまいます。
仮にカラーグレーディングで青みがかった街並みにしたい場合、フレーム内にオレンジ色があるとLookは成立しやすいのですが、幸い人の肌の色は赤と黄色の中間ですので、青みがかった背景の中では引き立ちやすいです。
しかし被写体のモデルが極端に色白なのであれば、それを無理やり日焼けしたような肌の色にグレーディングするのは勿体ないですよね。
その場合、衣装や小道具にオレンジや赤を持って来る事もあり、そうする事で分かり易いティール&オレンジのLookになります。
ただ、これはほんの一例なので、作品の方向性によって考え方は変わります。
参考までに、Julie & Julia (2009)というフランスを舞台にした作品がありまして、とにかく色の使い方が美しいので凄く勉強になります。
料理を題材とした内容なので、楽しい気分になるような明るい配色が多いのですが、白を基調としたシーンでも絶妙なトーンの違いで飽きさせません。

参照
Movieclips
Movieclips Classic Trailers
ここで重要なのは、狙って色を配置する必要があるという事です。
イメージ通りのLookに仕上げたいのであれば、企画段階で必要な色をピックアップしておき、ロケーションとのバランスを考えて配置していく必要があります。
または、その条件が満たされているロケーションを選択する必要があります。
そこまで大袈裟な撮影ではなく、ブラブラ歩きながら撮りたいという場合は、カラーバランスが美味しい場所を瞬時に見極めるスキルが必要という事ですね!
いずれにせよ、色の組み合わせには慣れておく必要があります。
そこで役立つのが「Adobe Color」なのです!
Adobe Colorの機能

Adobe Colorとは、Adobeが無料で提供するインストール不要のブラウザツールです。
カラーパレットを自動で生成してくれるので、正しい色の組み合わせがわからない人でも簡単にオシャレな配色を手に入れる事が出来る、とても便利なツールなのです。
カラーコードをIllustratorやPhotoshoptにインポートして使う用途が一般的ですが、映像の分野でも、幅広く活用できるものです。
まずは機能をご紹介させて頂きます!
手動+自動カラースキームの作成

カラーホイールとカラーパレット上にある「▲」印のあるチップがメインカラーとなり、ドラッグして動かすだけで他の色が自動で選択されます。
また、左側にあるカラーハーモニールールを変更すると、シンプルな配色(カラースキーム)から複雑なものまで色々見る事ができますので、色の組み合わせに関する基本的なルールを知らなくても、調和の取れた配色を作り出す事ができます。
それぞれの組み合わせの効果に関しては下記のリンクをご参照下さい。
»CineD:代表的な5つのカラースキームについて‐映画の配色から学ぼう
豊富な検索ライブラリ

慣れないうちは検索機能が役立ちます。
検索キーワードを入力すると、関連するカラーパレットが大量に表示されますので、そこからインスピレーションを得る事ができます!
イメージに近い画像をお持ちでしたら、検索窓に画像をドラッグ&ドロップするだけで類似するカラーパレットが出てきます。
見ているだけでも楽しいです^^
トレンドのカラーをリサーチできる

ビデオグラファーもフォトグラファーも、「自分の色」を持っている方が多いと思いますので、それがその人の味という事で期待されることはあると思います。
しかし「それしかできない」という事なら話は変わってきます。
Adobe Colorにはトレンドのカラーも随時アップデートされており、ソース元となるbehanceは世界中のクリエイターが参加するコミュニティーですので、インスピレーションやヒントを得る恰好のツールと言えます。
見るだけでも自身のライブラリーが潤いますし、何かのきっかけでアイデアとして即座に反映できるかもしれません。
自分の興味の外側から刺激される場所というのは結構大事です!
写真や画像からテーマを抽出できる

手持ちの写真や画像からカラーパレットを作成する事ができます。
試したくなる機能の一つですが、実際の使用頻度はそんなに高く無いかもしれません。
僕の場合は、MVの撮影などで、先行して衣装の案が出ている場合などに、その衣装と補色関係にある色を探して、ロケーションや小道具選びの参考にするという事はあります。
面白いので一回は試してみて欲しい機能です^^
まとめ

作品の色作りは、企画段階から始まるものです。
ノープランで撮影して「あとはカラーグレーディングで何とかしよう」という考え方ではなく、撮りたいイメージに基づいて配色を考えておく事で、作品の質が上がるというお話でした。
その色のバランスを見つける為に役立つAdobe Colorをご紹介させて頂きましたが、判断力を養わないことには限られた撮影現場をどう活かすか?という問題を解消できませんので、自身のライブラリーを充実させる為に、実戦2割:学習8割ぐらいの比率でツールに触れて頂くのが良いかと思います。
最近の動画編集ソフトは精度が益々上がっておりますし、収録素材もRAWや10bitなど比較的柔軟に編集出来るものがスタンダードになってきているので、「後で編集で何とかなるかも」という考えがチラつくかもしれません。
しかし、残念ながら無い色は持ち上げられません。
これは肝に銘じておきましょう!
撮影時は、構図や照明、カメラワークなど、考える事が多いので、色に無頓着であればあるほど、現場でのカラーバランスの判断を忘れてしまいがちです。
僕は過去に、何も考えずに枯れた森の中で茶色い服のモデルを撮影した事が有りますが、肌も割と日焼けしていたので、画面全体が茶色くて、お手上げ状態だった経験があります。
(衣装を指定しないと茶系で埋もれるパターンはよくあります!)
大事な撮影を無駄にしないよう、事前にほんのちょっと考えるようにしてみて下さい。
それだけで劇的に見栄えが変わるはずです^^
ではまた!
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