シネマティックな動画の定義とは何なのか?
プロ並みの画質で、色がオシャレで、良い感じにボケていて、滑らかで、上下に黒い帯があればそうなのか?
そんなわけ無いですよね。
そもそも我々ビデオグラファーは、言葉ではなく映像で伝える事を選んでいるので、わざわざ言葉の定義を見つけるというのは野暮というか、あまり意味のない事なのかもしれません。
しかし、それでも気になる「シネマティック」の正体。
実は日本におけるシネマティック動画にはある共通点があり、それは日本人が世界に向けて誇れる文化になりうると考えております。
もちろん一つの考え方としてですが、そのエッセンスを認識することにより、ぼんやりと目指していたものが明確になり、今後の作品作りに良い影響を与えるのではないかと考えております。
この記事では、世界基準で言うところの”Cinematic”の一般的な捉え方をおさらいしつつ、日本における捉え方の違いと、その強みについてご紹介して参ります。
シネマティックな動画とは?一般的なシネマティック(Cinematic)の定義
2008年に登場したCanon EOS 5DmkⅡの動画機能が世界的に話題になり、その頃からシネマティック 、シネマルック、フィルムルックという言葉が一般的になり始めました。
ちなみに辞典によると、シネマティック とは”映画の特徴的な品質を持っている”と言うことらしいですが、流石にザックリし過ぎていてなんの役にも立ちません…
とはいえ、映画的な要素を持ち合わせていることは確かなので、まずはどういった要素が映画的なのかを足早に見ていこうと思います。
10の映画的要素
映画製作というのは綿密な計画の元に行われ、ストーリーを観客に伝える事を第一に考えて試行錯誤されているものなので、意図の無い見た目の特徴というものは存在し得ません。
脚本があり、シーンごとの目標が明確だからです。
なので、ここでは意味とか細かいセオリーなどは全て無視して、結果的な見た目=Lookのみをピックアップしたいと思います。
- 被写界深度(ぼけ)
何でもかんでもと言うわけではありませんが、被写体と背景を綺麗に分離したショットは映画でよく使われます。 - フレームレート
適度なモーションブラーが得られる24fpsが主流で、シャッタースピードはフレームレートの2倍が適切です。 - スローモーション
映画のジャンルにもよりますが、観客を引きつける手法として使われます。 - 背景の圧縮
望遠レンズを使った圧縮効果はよく使われます。 - カラーグレーディング
色の雰囲気で世界観を表現したり、観客の感情をコントロールする目的があります。 - カメラの動き/視点
止めるのか?揺らすのか?どう動くのか?それらを考えてカット毎に適切な機材で撮影されます。 - フレーミング/構図
カメラの動きと密接な関係がありますが、フィックス(固定)ショットの場合は特に心理的な作用をもたらす構図がよく使われます。 - ライティング
単に明るさを確保する為だけはなく、観客の意識をコントロールする為にも使われています。 - アスペクト比
シネスコープと呼ばれる横長の2.35:1が有名ですが、他にも色々あります。 - 音楽
ストーリーを象徴するサウンドトラックは映画の醍醐味です。
音声(SE)も別録りで質の高いものが使用されることが多いです。
「素人的」の対局側
映画の様な見た目は、色んな要素を組み合わせる事で実現できます。
そして、多くのビデオグラファーが実践しているポイントは大体以下の内容に集約されます。
- 高画質
- カラーグレーディング
- カメラの動きや画角/視点
- スローモーション
- アスペクト比(レターボックス)
- 音楽+SE
あとは国や土地によって『地の利』が加わり、スケールの大きな、まるで映画の様な映像が出来上がり「シネマティック」となるわけですね。
10数年前では、個人でそのクオリティを出すなんて考えられない事でしたから本当にすごい事ですよね。
しかし映画といっても色んなジャンルや題材がありますので、一括りで「シネマティック」と表現するのは大雑把過ぎるかもしれません。
もしかすると「素人的な」という言葉の対局側の意味が強いのかもしれませんが、とどのつまりバジェット感と言うのではあまりにも薄っぺらすぎますよね…
ただ、ワールドワイドに見た場合、圧倒的な画力で打ちのめしに来るような作品も多いので、そういった側面はあると思っていますし、壮大なロケーションがシネマティックな要素と考えるのはごもっともな事なので、『金かかってそう』(←語彙力)というのも一つの要素だったりするのかもしれませんね。
では日本においてはどうでしょうか?
実は、日本人の作るシネマティックな動画は独自の進化を遂げようとしているのではないだろうか?と思っています。
それは日本人の性質がそうさせているのかもしれません。
次の項で詳しく触れます。
日本におけるシネマティックとはエモーショナルのことである
日本人がシネマティックさを求めて作る作品には、情緒的な美しさや、わびさびの心が自然と反映されている事が多いです。
ハリウッド映画さながらのジャブジャブ感ではなく、感情に訴えかける表現、言い換えるとエモーショナルさを求めているのかもしれません。
エモーショナル:(英: emotional)とは、感情的なさま・情緒的なさまを意味する表現。
参考:Weblio 辞書
直訳だとネガティブな意味合いと捉える場合が多いですが、作品に対しては「感情に訴えかける」「心にぐっとくる」「心に染みる」という意味で使われます。
奥深い言葉をあえて英語に変換する必要はないのですが、あえて言うなら「エモーショナル」なんだと思います。
脚本やシナリオが無い作品作りで、ストーリーも何も…と言うスタート地点から何かを感じさせようとする作り手の気持ちがあり、そこにはDNAレベルで自然と表現できる美しさがあるんですよね。
本当に素晴らしい事だと思います。
その事を踏まえて、海外の作品を見てみると全く違うものに見えてくるかと思います。
決して優劣の話では無いのですが、日本人には独特の性質があり、それはシネマティックを表現する上で大きな武器になりうると言う事です。
以下の事についてもう少し掘り下げたいと思います。
- わびさび
- 情緒的
わびさびとは?
わび・さび(侘《び》・寂《び》)は、日本の美意識の1つ。貧粗・不足のなかに心の充足をみいだそうとする意識。閑寂ななかに、奥深いものや豊かなものがおのずと感じられる美しさをいう。
参考:Wikipedia
日本独特の美意識と言われますが、西洋思考の感性と比較するとその特徴が見えてくるかもしれません。
モダニズム | わびさび |
論理的、合理的 | 直感の世界 |
大量生産 | 一点もの |
未来志向 | 即今志向 |
テクノロジーを美化 | 自然を美化 |
人工素材 | 天然素材 |
鋭く正確で一定 | ソフトで曖昧 |
行き届いた管理 | 劣化や消耗を受け入れる |
恒久的 | 季節感がある |
何気ない日常や光景の中にでも温かさや美しさを見出そうとする心。
これは日本人のモノ作りに大きく影響していると思いますし、アート・作品作りにおいても言える事だと思います。
情緒的とは?
作風における情緒的とは、しみじみと味わい深いポジティブなイメージのことを指します。
ちなみに、「ポジティブ=明るい」では無いです。
例えば「哀愁」という言葉があります。
これも日本独特の表現で、英語ではsadness、sorrow、melancolyぐらいしか表現出来ませんが、どれも違うという感覚がありますよね?
決して悲しいわけではなく、こみ上げてくる感覚。
そういう奥深い美しさがあって、それって意識的か無意識かはわかりませんが、日本のシネマティックな動画には当てはまると思うんですよね。
あと、ノスタルジーというのも、キーワードの一つかもしれません。
日本でシネマティックな動画がVlogとして表現される傾向が強いのって、再現不可能な”思い出”に対する「懐かしさ」や「尊さ」「儚さ」を表現することへの情熱で、心の琴線に触れる何かを作品に注ぎ込みたいと考えているからだと思うんですよね。
やはりこれも日本人の美的感覚が色濃く出ている部分なのかと思います。
実際、海外では”Vlog”って言うと本当にガチのビデオ日記ですし、”cinematic vlog””travel video”だったとしても、映像の雰囲気が映画っぽいだけの断片的な記録映像ばかりなんですよね。
勿論全てがそうだと言うつもりは無いですし、我々がそうであるように、その国の人にしかわからないエッセンスというのが注ぎ込まれている作品も多いのかもしれませんが。
いかがでしょうか?
見た目の映画っぽさも大事ですが、それ以上に感情に訴えかける何かを忍ばせる事に重きを置いているのが日本人のシネマティック動画なのではないでしょうか?
一個人の意見止まりですが、そういった違いを感じています。
まとめ
何をもってシネマティックと呼ぶのか?
一般的な映画的要素は、あくまでも見た目上の特徴であって、世界的にはそれらを兼ね備えている場合シネマティックと呼ばれる傾向があります。
日本においてもLookの事をそのように表現することはスタンダードですが、作品をトータルでシネマティックとする場合は、日本独自の美学を大切にしている傾向があり、しみじみと深いものを感じる事が出来る作品が多いと思っています。
これが意外と日本特有だったりするというお話でした。
そして日本においてはエモーショナルな要素があるかどうかでシネマティックと判断する”傾向”があります。
多分コメディは幾ら見た目が映画的でも「シネマティック」って呼んで貰えないと思うんですよね…どうなのかな?。
まぁ、言葉の意味なんて大した問題ではないということです。
ただ、シネマティックという言葉の元に、日本人ならではの素晴らしいスタイルの作品が根付こうとしているのは確かだと思いますので、『血の利』を生かした作品を、もっと世界に発信していきたいものです。
ではまた!
こちらの記事も併せてご覧ください。
»【重要】 一眼レフでシネマティックな動画を撮影する為の設定