「理由はともかく綺麗に撮れるからHLGを使っているけど、それが自分のワークフローに適しているのかどうかと言われると、よくわからない。」
という方、意外と多くいらっしゃるのではないでしょうか?
それについては、そもそもHLGは、HDR映像制作用に搭載されているプロファイルなので、本来の用途というのが存在するのですが、ガンマカーブにLogの要素も兼ね備えているので、カラーグレーディングを行いやすいこともあり、SDR用の映像制作で人気が出ているという経緯が大きいので、小難しいHDR映像絡みの情報が”今の動画ブーム”の中で取り沙汰されないということが、大きな理由なのではと考えています。
ちょっと自分で調べてみたんやけど、吐きそうになったわ。。。
TV放送規格の話は混乱するからやめてほしい…
でもどうせ使うなら、しっかりした裏付けをもって使いこなしたいところですよね^^
この記事は、前編と後編に分けてHLGで撮影するメリットと、その使い分けについてご紹介しており、特に、HDR映像を作りたいわけではなく、Youtubeなどで公開する自分の作品用として考えている場合を想定して解説させて頂いております。
後編(この記事)では、具体的な撮影時の設定に焦点をを当てて進めてまいります。
まだ前編をご覧頂いてない場合は、こちらのリンクからご参照下さい
»HLG(PP10)で撮影するメリットと技術的裏付け:前編【 SONYユーザー以外も必見】
- HLGとは何か?
- なんでみんなHLGで撮るの?
- 開発の経緯から見るHLGのメリット
上記が前編でお話しした内容です。
HLGが放送用の規格として開発されたことは、ある程度ご存知だったかもしれませんが、そのプロファイルを使ってSDR環境用に映像制作を行うのって、何か間違ったりしてないかな?という点に関しては、HLGが従来のRec709TVモニターでも映像が破綻せずに見えるように開発されている事からも問題ないと言えますし、そもそもSDR環境用に書き出すのであれば、元の素材が何であれ、仕上がった映像がそれ以上どうにかなるわけでもないので、問題無しという事です。
*ちなみに、Premiere ProによるHDR放送用の書き出し方法はこちらです。
»Adobe:放送用HDR
では実際に撮影する際、どんなことに注意すれば良いかというのが今回のテーマです。
早速行きましょう^^
HLG撮影時の設定「露出の合わせ方」
S-Logなら+2(ETTR)といった情報はネット上に沢山ありますが、ことHLGに関しては何故だか見当たりませんよね。
SONYの場合HLG/HLG1/HLG2/HLG3と、4種類がありますが、公式ページには露出の基準に関する表記がありません。
例えばS-Log2なら、「反射率18%グレーのビデオ出力が32%になる状態」と明記されてますので基準にできるのですが、HLGに関しては全く情報が有りません。
どうするのが正解か?
混乱の原因となるHDR映像制作向けの設定と、SDR環境のみを視野に入れた露出の考え方を、分けてご紹介いたします。
HDR映像制作における露出の考え方
「HDR映像制作」を行う場合はヘッドルームに余裕を持たせる必要がある為、基本的にアンダー気味に撮ることが多く、正規の方法だと18%グレーのビデオ出力は下記のようになります。
- HLG :21%IRE
- HLG1:19%IRE
- HLG2:20%IRE
- HLG3:21%IRE
この設定は、暗すぎます!
めちゃくちゃ暗いです!!
当然ノイズが目立つので、それを回避する為、BT.2408というHDR規格の推奨事項に則って38%IREで露出するという方法もありますが、その場合各種編集ソフトのカラー補正プリセットが上手く適応されない可能性があるのと、当然ヘッドルームに余裕が無くなります。
HLGというのは、前編でもお話しした通り、HDR映像を撮る為のプロファイルで有り、HDRTVではダイナミックレンジを存分に活かした映像を楽しめる上、一般的なRec.709のモニター環境でも問題なく見れるという両刀使いなんです。
そして70%IRE付近以降からLogタイプのガンマに切り替わる特性を持っている為、限界まで露出せずに75%IRE付近で留めておく傾向が強いのです。
これが、HDR映像制作時における露出の考え方です。
参照記事
»Recording & Editing with Hybrid Log Gamma (HLG) – Part 1
»Recording & Editing with Hybrid Log Gamma (HLG) – Part 2
»Sony and Hybrid Log Gamma (HLG)
「なんだか興味が湧いてきたぞ!」という方は是非深掘りしてみて下さい^^
SDR環境用の露出の考え方
HDR映像制作ではなく、SDR環境用の作品作りを目指す場合は上記の限りでは有りません。
“SDR環境用の映像”とは、普段使っているモニター環境(Rec.709)で見ることを想定して作られた映像のことです。
Youtube上にある映像も、TVで見るNetflixもそれに当たります。
HDRに関しては、専用の機器(モニター/TV)と、専用の映像があって初めて成立する点においてはVR(3D映像)と似てるかもしれませんね。
さて、本題に戻ります。
要するに、普段我々がHLGで作品撮りする際の露出設定は、難しく考える必要は無く、白と黒の中間である18%グレーがビデオ出力レベルの50%辺りにくればほぼOKということになります。
厳密に言うと、HLGもプロファイルによって最大ビデオ出力レベルにばらつきがあるので、50%周辺で探ることになりますが、18%グレーがやや暗めのスキントーンと同じぐらいの露出になりますので、平均的な肌が55〜60%に来るぐらいと考えて露出すれば問題なしです。
その調整の為に活躍するのがゼブラ機能です。
下記はX-Rite ColorCheckerとゼブラ機能を使った例です。
カスタムゼブラで基準値を50%に設定し、ColorCheckerの左側真ん中の18%グレーにゼブラがかかるように露出を調整します。
この時の設定は以下の通りです。
- シャッタースピード:1/50
- F値:2.0
- 露出(MM):+0.3
- ISO:160
パッと見、ハイライト(ヘッドルーム)に余裕があり過ぎるので、本能的にもう少し露出を上げたくなるところですが、この撮影環境には「空」や「発光体」がありませんので、これで大丈夫です。
一般的なゼブラの使い方は、95%ぐらいに設定して白飛びを防ぐ用途になりますが、必ずしも「白飛びしてない=適正露出」とは限りませんので注意が必要です。
また、選択するプロファイルによって、最大ビデオ出力レベルが異なりますので、露光環境の異なるシーンで使い分けるのも有りですね。
HLG :100%
HLG1:87%
HLG2:95%
HLG3:100%
ちなみに、上記のうち一番上の”HLG(数字が付いてない)”のみ、ほぼBT.2100らしいですが、SDR用映像制作を行うなら、あまり関係ないので、最大ビデオ出力レベルだけ注意しておきましょう。
[HLG]はITU-R BT.2100相当、[HLG1]、[HLG2]、[HLG3]は従来のカメラの映像表現と違和感を出さずにより広いダイナミックレンジを実現するガンマ設定で、ダイナミックレンジとノイズのバランスがそれぞれ異なり、シーンに合わせた使い分けが可能です。
参考:SONY 公式サイト
注意点
・Leeming LUTなど、専用のLUTを利用する場合は、提供元のマニュアルに従って露出して下さい。
・Gerald Undoneが、ノイズの問題を解消する為、上記の設定+1 stop overを推奨しておりましたが、露出の変わりやすい屋外では危険かもというのが個人的な感想です。
色域の選択とカラーグレーディング
これも当然、HDR映像制作かどうかで考え方が変わるものです。
当然綺麗な色を表現する為に一番良い選択をし、必要であればしっかりカラーグレーディングを行って作品を世に送り出したいですよね!
そのための判断基準です。
色域の選択
最初に色域について簡単に触れておきます。
SONYのαシリーズなら、ピクチャープロファイルを選択すると、その詳細設定画面で「カラーモード」を選択できるようになっております。これが「色域」のことです。
ちなみにHLGを選択した場合選べる色域は「BT.2020」と「BT.709」の2つです。
上記の画像を見て解る通り、選択する色域によって収録できる色の多さは大きく変わります。
しかし我々が普段使っているカメラのモニターや、PCのモニター、大半のTVは「BT.709」の色域しか表示できない為、殆どの映像コンテンツはポストプロダクションで709に変換(その範囲に収める)する作業が施されます。
「え?じゃぁ最初から709で撮影すれば良いのでは?」
って思いますよね。
実は、それがほぼ正解なんです。
考え方は以下の通りです。
まず、大半のHDRTVはRec.2020の色域を求めているのに対し、ほとんどの従来型モニターはRec.709の色域を望んでいます。
- Rec.2020の映像を709モニターに映すと、色がフラットに見えますので、ちょっと違和感を感じると思います。
- 逆に709の映像を2020モニターに映すと、彩度が強くなりすぎて見れたものでは有りません。
ですので、実際にHDRTVに映さない限り、2020の色を使用しても意味がありませんし、仮に2020で撮影して、SDR環境(通常のTVやモニターなど)で色が正しく見えるようにするには、グレーディングする必要があります。
当然、欲張って広い範囲の色域を指定しても、709の範囲外の色は表現できません。
結論、一般的な「SDR環境」を視野に入れた作品作りなら、709で撮影するのが無難ということです。
注意)露出と同じく、専用のLUTを使う場合は提供元のマニュアルに従って下さい。
参照記事
»WHAT IS HLG AND WHAT IS IT SUPPOSED TO BE USED FOR?
カラーグレーディングはするものなのか?しても良いのか?
HDR映像制作(特に放送用)においては、カラーグレーディングを行わないものと考えられています。
用途から考えて、その必要がないワークフローを目指すべきというのが正しいですが、ポストプロダクションで、ある程度調整が行われることはあります。
一応各社からLUTが提供されていますが、それは大抵の場合カラーシフトの微調整などに止まりますので、派手にLookをいじり回すものではありませんし、仮にグレーディングを行うにしても、HLGは特殊なガンマカーブですので、特に70%IRE以上のハイライトの調整はシビアになります。
ただし、これは何度も言うようにHDR映像制作をする場合の話で、ダイナミックレンジが命のコンテンツ制作をするなら、というお話しです。
なので、一般のビデオグラファーとしてSDR環境用に映像を制作する場合は、上記ほどシビアに考える必要はありません。
そもそもHDR対応のモニターがなければ、ハイライトの破綻も何も気づく事すら出来ないと思うので、あくまでも709として書き出す為に撮った素材と捉え、カラーグレーディングを行う事は全く問題ありません。
HLGの素材はS-Logと比べると、割としっかり発色しているように見えるはずですが、S-Logだって709に変換してから作業を進めたりしますので、SDR環境向けの制作なら大差はないということになります。
ですので、素材が何であるかの前に、正しいカラーグレーディングを行うことに意識を向ける事の方が大切と言えますね!
*ちなみにS-Logで撮影していれば、そこからHDR素材も作れますので、そういう面で言うとS-Logの万能さは流石です。
まとめ
「理由はわからないが、HLGで撮影すると及第点を取れるので、とりあえずHLGで作品の撮影をしているけど、なんかモヤモヤする」という気持ちを払拭すべく、前後編に分けて、HLGについてご紹介しました。
HDRやSDR、2020とか709とか、何%だとか、細かくて嫌になる内容だったかもしれませんが、HLGで撮影やグレーディングを行ってもOKという裏付けは得られたのではないでしょうか?
そもそもこの記事の目標は「納得してHLGで作品作りを続けることが出来る!」なので、この記事を通して、ご自身がどの方向で制作を進めようとされているのかを整理する良い機会になったのであれば幸いです。
僕自身、元々HDRに関しては無関心で、それでも「HLGは綺麗に撮れるし使いたい」という考えで、SDR環境用しか視野に入れてなかったのですが、先々のことを考えるとHDR環境にも対応したHLGの使い方というのも体得しておいて損は無いかもな〜と思う今日この頃です。
正直、露出とホワイトバランスが上手くいけば、凄くクイックなワークフローを組めるプロファイルなので、しっかり使いこなしていきたいですね^^
ではまた!
この記事の「前編」はコチラです。
»HLG(PP10)で撮影するメリットと技術的裏付け:前編【 SONYユーザー以外も必見】